●プロダクションノート●
 
●水着姿のボーイズ200人が大集合
  映画の主役たち、ウォーターボーイズはすべてオーディションで選ばれた。2000年7月26日、都内某プールに集まった男子はなんと約200人。これだけ大勢の水着姿の男性を目のあたりにした映画関係者は前例がないかもしれない。まずは今回、水泳指導を担当する元平泳ぎの日本記録保持者、不破央さんの指揮のもと、クロール、平泳ぎ、潜水の基礎泳力を見る第1次オーディションが行なわれた。その2日後には、ダンスのリズム感、演技力、身体を使った特技などを見る第2次オーディション。ここではスタッフ以外の一般女性審査員も加わって、ヴィジュアル審査(!)も行なわれた。


●男の友情は背中が物語る!

選ばれた28人のボーイズたちはシンクロ演技のため、クランクイン約1ケ月前の8月18日から千葉・館山の夏休み中の高校のプールを借りて合宿に入った。 ハードなメニューはもちろん、照りつける夏の日差しでボーイズの肌はあっという間に真っ赤に。なかでも土台を担当するボーイズの肩は、上に乗ってジャンプする相棒の足の力で擦りむけてしまう。日焼け止めクリームは必需品となり、大勢の若い男の子たちがお互いの背中にクリームを塗り合う、ちょっと珍しい光景が日常となった。
 そして9月に入ると撮影が行なわれる静岡・相良町へ場所を移し、合宿は佳境に。相良合宿では、うってかわり雨天の日が多く、豪雨の中のプールで練習を行なうことも。もはや秋、水の上では暖かくても、水の中ではすぐに体温が奪われていく。寒さのあまり動きが鈍くなり、集中力も低下するが、それでも28人がタイミングをそろえねばならない。ボーイズたちにとって、暑さと寒さがこれほど身にしみた夏はなかった。

●ボーイズたちの兄貴

 「不破さんがいなかったら、この映画成立してないよ」とはセカンド助監督、山口晃二の言葉。アクロバット、シンクロ、陸上ダンス全般にわたって特訓指導した不破さんの存在はボーイズたちにとって大きなもの。ひとりひとりの気持ちを汲んだ丁寧な指導で、時に檄を飛ばそうともその信頼が揺らぐことはなかった。また、ボーイズの一員として出演しながら川越高OBのひとりとして不破さんの助手をつとめた高鷹一雅くんも、何歳も年上の不破さんを相手に、毎晩シンクロの内容について激しいやりとりをし、一歩も引かなかった。常に上を目指す二人のこころざしの高さが、ボーイズたちの士気を高めたのは間違いない。


●いよいよクランクイン
9月15日。通常、映画の撮影初日は比較的簡単なシーンから始めて、それぞれのパートの人間が撮影ペースを掴んでいくのが一般的スケジュールの組み方なのだが、季節が秋に向かう都合上、矢口組はいきなり複雑なラストのシンクロ演技シーンからのインとなる。このシーンに組まれた撮影日数は3日間。全100カット以上。あまりにも高いハードルを越えなければならない。天候にも影響され、1カット、1カット、一切の妥協のないシンクロシーンの撮影がすべて終わった時には結局7日を経過していた。だが28人が渾身の力と思いをぶつけたその熱い演技は、観る者すべてに感動を与えて くれるだろう。

●矢口家のイルカの行方

  イルカは繊細な動物なので、通常イルカプールに訓練士以外の人間が入ることは禁じられている。そこでイルカたちが気絶してしまうシーンの撮影では、美術部によって実物大のイルカ人形が作られた。鈴木の人工呼吸で泡を吹くのも人形の仕掛けによるもの。そのあまりの出来映えに満足した矢口監督は撮影後、自宅に持ちかえったとか。このイルカ君、ひょっとして矢口監督の今後の映画にまた登場する機会があるかも?

台風接近中!
初めて海でシンクロの練習をするシーンは御前崎の入り江で撮影された。だが撮影前日、スタッフが準備に行くと、入り江はロケハン時と一変して荒れ放題。昨日、日本の南海上で台風が発生したため、夥しい数の流木が打ち上げられてしまったのだ。自然の力に驚くスタッフだったが、すぐに気を取り直して撮影を一日延期し、スタッフ総出で海岸を掃除して無事撮影にこぎつけた。だが次に苦労したのは5人のボーイズたちだ。プールとは違う波を全身に受けながら足を揃えるのは大変!OKが出たときには5人とも元の位置とはだいぶ違うところまで流されていた。

●「シャチに乗った竹中サン」

片や竹中直人さんも今回は竹中節の真骨頂ともいうべき猛烈な演技で応酬。矢口監督は役者によっては細かい動きを注文するが、こと竹中さんに関してはほとんど注文をつけず、実に嬉しそうな笑みを浮かべるばかり。それでもシャチの背に乗るシーンではさすがに緊張を隠さなかった。泳ぐシャチの背に乗るカットはうまくいったが、陸に上がったシャチの背に乗るカットでは本番中に竹中さんを背に乗せたままグラリと傾きかけた。竹中さんは演技を終えてサッとシャチを降りOKとなったが、のちに水族館スタッフは「あれ以上乗ってたら危険だった。やっぱり役者さんは勘がイイ」と感心することしきり。

●笑いと涙の花束贈呈
妻夫木・玉木・三浦・近藤・金子の5人が揃った最後の撮影は、銭湯でのシーン。妻夫木以外の4人はここで全ての撮影を終え、監督から花束が手渡された。涙を流す者もいたが、銭湯のシーンで全裸という設定のため、役らは全員肌色のパンツ姿。この映画にふさわしい、笑いと感動の入りまじった一幕だった。



 
 
製作 フジテレビジョン・アルタミラピクチャーズ・東宝・電通
監督/脚本 矢口史靖

(C)2001フジテレビジョン/アルタミラピクチャーズ/東宝/電通