ひめじ国際短編映画祭<磯村監督特集>レポート!!
- 2010年09月06日
- ALTAMIRA PICTURES, 映画「瞬 またたき」
がんば会の和田曜章さんがひめじ国際短編映画祭のレポートを送ってくれました!
和田曜章さん、お疲れさまでした!
↓
去る8月7日(土)・8日(日)に、イーグレひめじにて開催された
「ひめじ国際短編映画祭」で磯村一路監督がコンペ部門の審査委員長を務められ、
8日には<磯村監督特集>が開催されました。
短編映画祭ということで、磯村監督の作品の中から、
「僕は泣いちっち」(オムニバス作品「歌謡曲だよ、人生は」の中の一篇)と
「トカゲ飛んだ?」の2作品が上映され、
上映後には司会者の質問に答える形で、
磯村監督のトークコーナーも実施されました。
【映画業界に入ったきっかけ】
磯村監督は学生時代には仲間と自主映画製作の活動をされていたそうですが、
折りしも70年代初頭は日本の映画産業の衰退が顕著になり始めていた
時期にあたり、撮影所に入るなどは相当に困難な状況で、
たとえ映画が好きでもそれを仕事として行う場所がなかったそうです。
しばらくサラリーマン生活を続けていたそうですが、それも辞め、
ジャズバーで短編映画を上映しその作り手を招いて
ティーチインを行う活動を始められました。
その頃、ゲストとしてやって来られたのが、
最新作「キャラピラー」も話題の鬼才・若松孝二監督でした。
若松監督は磯村監督に、「君は上映会をやっているけど、
作る方には興味はないのか?助監督をやれよ」と声を掛けられたそうなんです。
その言葉を胸に、若松監督のプロダクションに飛び込んだものの、
若松監督は当時「愛のコリーダ」のプロデュースであちこちを奔走している最中で、
磯村監督は誰もいなくなった事務所で1年ばかり電話番をされていたとか。
そして戻ってきた若松監督からのご褒美として、
成人映画の監督に抜擢され、そこから映画監督としてのキャリアが始まった・・・
とのことでした。師匠と言っていい若松監督と磯村監督との
出会いと関係性が味わい深いエピソードですね。
【上映された磯村監督の短編作品について】
「僕は泣いちっち」はアルタミラピクチャーズの桝井省志プロデューサーの
一連の音楽映画シリーズの流れの中で生まれた作品であり、
多彩な監督がさまざまな歌謡曲をモチーフに、
バラエティに富んだエピソードを展開しているオムニバス映画です。
その中でも磯村監督が「僕は泣いちっち」を選ばれたのは、
監督が小学生の頃に大ヒットした歌であり、
監督も子どもながらに歌っておられたそうです。
なぜあんなにヒットしたのか、作る立場になって振り返ってみれば
何か発見できるかも知れない、という思いがおありになったようです。
そしてその時代に通わせるかのように、
昭和30〜40年代の日活歌謡映画の世界を目指されたそうで、
併せて当時の東京と地方との距離感・・・
そこから生まれる物語の味わいをも描こうとされたとのことでした。
もう一本の「トカゲ飛んだ?」は当初はWebムービーとして企画されたそうで、
磯村監督としては今後の映画監督としての活動を考えた場合、
ひとつの勉強になると考え、取り組まれたそうです。
ただ結果的に劇場公開作品に変わってしまい、
小さな画面を想定してなるべく寄ったサイズでの撮影に
腐心するなどしていただけに、
スクリーンでそれらの映像を観た際にはちょっとショックだったということでした。
またこのシリーズは「PET BOX」と冠されているとおり、
ペットブームにあやかってそれぞれの監督がひとつの動物をチョイスして
それをモチーフに映画を作るものだったそうで、
監督は当初はご自身が飼っていることもあってネコで考えていたそうです。
しかし脚本家が詳しかったトカゲに変更となり、不安ではあったものの、
結果として面白く映画作りができたとのことでした。
【最新作「瞬 またたき」について】
磯村監督が語った、原作を映画化する場合の実務的なノウハウが
非常に興味深い内容でした。
映画ではもちろん原作の本質は変えていないのですが、
舞台を東京・多摩川から北海道・札幌へ、季節を夏から春先へと変更しています。
東京・多摩川では交通量や人の出入りが多く、ここで撮影するには
早朝などの人のいない時間帯を狙わないといけない制約が
生じるという判断がありました。
同様に、物語の核となる事故現場を、原作の交差点からトンネルに変更したのも、
街中で事故の撮影は大変な困難を伴う恐れがあったからでした。
北海道であれば使っていない道路もあるのでは・・・との読みどおりに、
封鎖されていたトンネルを見つけることができ、そこで撮影を行ったそうです。
季節の変更については、主演のお二人の俳優陣のスケジュールに
よるところが大きかったそうです。
原作には多摩川の花火大会など、印象的な夏のシーンがあるわけですが、
夏を待っていては主演のお二人のスケジュールが確保できない。
つまり2人をとるか、花火をとるかという判断を迫られ、
それならばやはり2人のスケジュールを押さえることができる6月を選択し、
そこから逆算して札幌の桜というイメージを抽出していった、と・・・。
「なかなか思う場所・状況で映画は撮れない・・・であれば、
現実的にどう消化し、どこで撮るのかは、映画を作るうえでの大きな課題」と
語る磯村監督の言葉は、コンペ部門に参加していた映画作家の方々にも
有益なアドバイスとなったことでしょう。
【若手映画作家へのメッセージ】
監督のトークコーナー終了後は、
そのままコンペ部門の授賞式が開催されたのですが、
そこでの監督から自主映画作家の方々へのメッセージが印象深いものでした。
昔、磯村監督たちが自主映画を作っていた頃は
「何のために作るのか」「なぜこの映画を作るのか」を
延々と議論して先へ進まなかった。
しかし今、皆さんはやすやすとそれを乗り越えている。
また今は小さな画面からでも、映画を作る可能性は広がっている。
が、「何のために作るのか」「なぜこの映画を作るのか」、
その問いを逆に今度は皆さんが映画を撮ろうする際に考えて欲しい・・・。
映画を作る環境や技術が一般の自主映画作家にも開かれ整った今日だからこそ、
表層ではなくその魂(スピリッツ)が映画には大切なのだと実感いたしました。
【コンペ部門の受賞結果】
グランプリ
「恋するネズミ」ひだかしんさく監督
準グランプリ
「Googuri Googuri」三角芳子監督
「走るのには理由がある」岡元雄作監督
観客賞
「おうちへかえろう」佐藤福太郎監督
監督賞
「くらげくん」片岡翔監督
奨励賞
「くちゃお」奥田昌輝監督
「おうちへかえろう」佐藤福太郎監督