去る2月8日~14日、周防正行監督はロンドンを訪れました。
国際交流基金ロンドン日本文化センターの招聘で、
「それでもボクはやってない」の上映会とティーチ・インに出席するためです。
この国際交流基金ロンドン文化センターでは、
イギリス国内で日本映画を紹介する企画を毎年開催していて、
今年のテーマは『オリジナル・シナリオによる日本映画』。
「それでもボクはやってない」を、
ロンドンを皮切りにエジンバラやグラスゴー、ベルファストなど
7か所で上映するイベントです。
まず9日に、国際交流基金ロンドン日本文化センターの会議室において、
“Masayuki Suo in conversation”と
称してのティーチ・イン。

<左から、司会 ジャスパー氏、周防監督、通訳 ベサンさん>

司会進行を務めるジャスパー・シャープ氏は、
「Shall we ダンス?」に感動してIT企業での職を辞し、
映画の世界に入ったと言う大のSuo Fan。
1950年代の日本における映画会社の競合状況を博士論文の題材にするほどの
日本映画オタクとなって、
現在はシナリオライターとして、また様々な映画祭のディレクターとして
活躍をされています。
80人前後の参加者は、英国人が7割に、日本人3割。
周防監督の映画作りに対する姿勢や、原作の映画化とオリジナル作品の違い、
蓮見重彦氏や伊丹十三監督から受けた影響についてなど、質問は多岐にわたり、
予定の1時間30分がアッと言う間でした。
イギリスでも周防監督への関心の高さをあらためて認識した次第です。
途中上映された「Shall we ダンス?」のアメリカ版予告編に
周防監督は『下品で嫌いだ』と苦虫を噛んでいましたが…。

11日、12日は、セントジェームズ公園そばにあるICAシネマにおいて
「それでもボクはやってない」の上映。
冒頭に周防監督がお約束の“May I take your pickture?”で観客の笑いを誘って
映画のスタートとなりました。
痴漢のような犯罪がほとんどないイギリスという国で、
日本の驚くべき司法制度の問題点を果たして理解してもらえるかどうか
悩ましいところでしたが、観客は2時間23分スクリーンに釘付け。
ラストの“Masayuki Suo”のクレジットでは拍手が鳴りやみませんでした。
ただ、日本ではほとんど出なかった笑い声も随所に。
これはお国柄の違いと言うよりも、日本の警察・検察・裁判所のありように対しての
信じられない思いが観客の笑いを生み出していたように思えました。

<左から、周防監督、通訳 ベサンさん、国際交流基金 竹川さん>

終映後はまた、活発な質疑応答が繰り返されましたが、
イギリスの現役弁護士さんから日英の法律に関する難しい質問が飛び出すなど、
通訳を担当したウェールズ生まれのブロンド美女ベサンさんも四苦八苦。
都合三日間に渡る「それボク」イベントは、熱気を帯びたまま盛況裡に
幕を下ろしました。

<左から、根津一等書記官、林大使、周防監督、油田氏、鈴木公使>

また、滞在中には在英国の林景一日本国大使主催による公邸での昼食会に
お招きをいただきました。
林大使は、ソ連時代のモスクワや、ワシントン、本省では条約局長、
国際法局長といった勤務を経てアイルランド大使を務められるなど、
現在日本外交のトップにいらっしゃる方です。
美味しい日本料理に舌鼓を打ちながら、大使の興味深いお話を存分に
堪能させていただきました。
しかも、その著書「アイルランドを知れば日本がわかる」(角川書店)
までいただいて、至れり尽くせりのおもてなし。感謝至極です。
各国大使館が集まる静謐なケンジントン宮殿の一角を散策しながら
帰途につきましたが、イスラエル大使館の前だけには
サブマシンガンを抱いた警備兵がいて、
さすがの周防監督もいつものようにカメラを構えることができませんでした。
イギリスは紅茶とパブの国だったはずですが、
昨今日本でもおなじみスターバックスやネロ、プレタマンジェ、コスタといった
コーヒー・チェーン店が続々と登場して大繁盛。葉ではなく豆の香りが漂い、
ときどき雪が舞いながらも抜けるような青空が、
これまでのイメージとは異なるロンドンの街でしたが、
周防作品への熱い思いと非日常の世界に浸ることができた
五泊七日の旅でありました。

                       成旺印刷株式会社 油田 哲