こんにちは。DVDディレクターの伊尾喜です。
 さあて、DVD発売まで1週間を切りました!
 このコラムも、どんどんペースアップ していきますよ〜!!

  ●「映像」に負けないくらいの、大事な要素
 前回は、どうやって元のフィルムの映像を再現するか?についてお話しましたね。 今回はその「映像」に負けないくらい大事な要素である、「音」についてレポートしましょう。
 
「あの」ラジカセをイメージした、音声メニュー画面。

 「ウォーターボーイズ」DVDには、音が3種類入っています。

 1:劇場公開の際のオリジナル音声である「2.0chドルビーサラウンド」
 2:DVDのためにリミックスを施した「5.1chドルビーサラウンド」
 3:矢口監督とボーイズ5人による音声解説

 この3種類から、好きな音を選んで楽しんでいただけるわけですが・・・いったい どれがなんだかわからない!という方のために、くわしくお話したいと思います。

●ドルビーサラウンドって何?
 これは映画の立体音響方式の名前です。1970年代に開発され、1977年の「スター ・ウォーズ」で大ブレイク。瞬く間に映画音響の標準方式となっていきました。
 センタースピーカー1ch(チャンネルと読みます)+左右のフロントスピーカー 2ch+サラウンド1chの、合計4チャンネルで立体的なサウンドを演出するという方式 なのです。
 例えば、この方式で上映された「ウォーターボーイズ」冒頭の水泳大会のシーン。
 センター「だけ」から鈴木の心臓の鼓動音が響き、フロント左右からは選手紹介アナウンスが流れ、サラウンドからはアナウンスのエコーが聴こえてきます。
 画面には会場全体は写りませんが、アナウンスのエコーがかなり深いことから、ここが広い場所であることを音で表現しているんですね。また、他の選手たちにはたくさんの応援がかけつけている中、たった一人の唯野高 校水泳部員として参加している、鈴木の孤独で不安な気持ちまでも伝わってくる気が しませんか?
 そして「ヨーイ!」の声とスタートの合図のピストルの音がセンターから小さく聴こえ、そのエコーがまたサラウンドから聴こえる。選手たちが飛び込むと同時に、観客席からの応援の完成が、センター・フロント・サラウンドのすべてのチャンネルから再生され、あたかも観客である僕たちが水泳大会の会場にいるかのような感覚を味 あわせてくれるのです。
 意外と気づきにくいんですが、冒頭のシーンだけでこんな「音」による演出がされ ていたんですねー!!これを可能にしてくれるのがドルビー・サラウンド方式なのです。
 DVD「ウォーターボーイズ」音声の、まず1つめが劇場公開のときと同じサウンドを収録した、2.0chドルビーサラウンドです。「あれ?4chじゃないの?」という声が聞こえてきそうですが(笑)、この方式はセンター1chとサラウンド1chの音を、フロントの2chの中にミックスして記録しているんですね。つまり、サラウンド対応のシステムがなくても、テレビのステレオスピーカーできちんと再生できる、ということなんです。
 対応するアンプを使用すると、センターとサラウンドの音をフロント2chから切り離して再生してくれる、そんな仕組みになっています。

●じゃあ、5.1chって?
 5.1chドルビーデジタルサラウンド方式は、日本では1992年に公開された映画「ドラキュラ」から採用されたデジタル音響システムです。
 センター1ch、フロント2chという構成は上記の4chシステムと同じですが、サラウンドが従来の1chから2chステレオ音声にグレードアップ。さらに、重低音のみを再生 する「サブウーファー」というスピーカーが追加されています。サブウーファーは重 低音のみ再生するため、1chではなく0.1chとカウントします。
 以上で、センター1ch+フロント2ch+サラウンド2ch+サブウーファー0.1ch=計 5.1chとなります。
 劇場では4chだった「ウォーターボーイズ」ですが、DVD化にあわせて「ボーイズ」 も5.1chリミックスバージョンを作ろう!という矢口監督からの発案を受けて、今回の5.1chバージョン収録となったわけです。
 この5.1chはデジタル音響方式。そのため、音の明瞭さが向上し、高音から低音の幅が拡大するなど、クオリティは格段に上がっています。
 そんなわけで、このバージョンではこれまで以上にセリフがハッキリと聴こえてくるはずです。さらに、音の迫力や包囲感、音楽の心地よさもより倍増させるべく、WESTLAKE STUDIOのミキサー、西矢さんと中村さんに腕を振るっていただきました!
 ちょっと例をあげてみても、
 ○プールの水を抜くシーンでは「ごごご〜〜」という迫力の重低音がプラス
 ○金沢の鼻血ダイブ(わかりますよね?)では、プールの底に彼が激突する、
  イタ ーイ低音がプラス
 ○「シンクロチャチャチャ」のシーンでは、静子たちがはじめた「チャチャチャ」
  がじわじわとプールサイドの観客全体に広がっていく
 ○シンクロのシーンでは音楽もさることながら、水しぶきのみずみずしい音がとて
  も近くに、リアルに聞こえる
 ・・・などなど、とっても楽しいリミックスサウンドになっています。ぜひぜひ、 5.1対応のシステムでご覧になってみて下さいね。

●水泳部の部室から
 さて3つめはオーディオコメンタリー。進行役に「アヤパン」でおなじみの高島彩アナを迎え、矢口監督+妻夫木くん+玉木くん+金子くん+三浦くん+近藤くんが映 画を観ながら、91分ノンストップで裏話をわいわいと語ってくれるチャンネルです。
 
聞き手:高島彩(フジテレビアナウンサー)  
   
こんなににぎやかなコメンタリーは、邦画では前代未聞!?
 
  収録が始まり、画面に東宝マークが出た瞬間に、いきなり全員拍手喝采!で「いえ ーい、とーほーっ!!」盛り上がりまくるこのコメンタリー。
 積極的に話をしてくれる矢口監督と妻夫木くん。
 にぎやかな金子くんと三浦くん。
 まるで構成作家の先生のように?静かに作品に見入っている(そして妻夫木くんか ら突っ込みの入る)近藤くん。
 「ちゃんと進行してくださいね」と監督から突っ込みの入りまくる、「アヤパン」 そのまんまの高島アナ(実は本作を何度も観てくれている、大のWBファン!)
 ・・・という、完璧な役割分担が自然とできあがってしまった?楽しい座談会になっていますよ。
 さて、実はこのコメンタリーの中には、「ウォーターボーイズ秘蔵音源」がいくつか紹介されています。
 ○竹中さんの鼻歌、別バージョンが聴きたい方。
 ○鈴木と早乙女が海辺で本当は何を話していたか、気になって夜も眠れない方。
 このチャンネルに、その答えがありますゾ。乞うご期待!

●字幕にもこだわってます。
「いや〜、こんなに何度も監督さんとやりとりをしたの、初めてですよ〜^_^;」と語るのは、字幕制作会社(!)アウラの相場さんと熊谷さん。
今回のDVDには、日本語字幕・英語字幕ともに収録をしてあります。
 海外の映画祭上映用に、まずは英語字幕が作成されましたが、この際にも矢口監督 のコダワリがかなり反映されているのです。セリフやギャグのニュアンスが、きちんと英語に反映されているかどうか?・・・この部分に、徹底した監督のチェックが入ったとのこと。
 そして、以前にBBS上でもお約束させていただいた、日本語字幕を制作しました。 本編の音声をもとに相場さん・熊谷さんが仮の字幕を入れたビデオを作成、監督やプロデューサーのチェックを入れる、というやり方をしていました。
 しかしながら、そこは矢口作品。簡単にOKが出るはずもなく?セリフを表示させるタイミングや文字表現など、徹底的に監修をしていただいています。
 その甲斐あってか、完成した字幕は映画の「リズム」を見事に再現した、充実したものとなりました。また、シンクロのシーンでは曲名や歌詞も表示されたりするんですよ。
 「すんごい達成感がありましたー!!」とは、相場さんと熊谷さんのおコトバです。いやいや、お疲れ様でした!!

●最後に、ちょっと気になっている部分について。
 さて、最後にシンクロディスクについて、ちょっと気になっていることを書いておきます。
 「ウォーターボーイズ」DVDは、片面二層という方式で収録されています。
 1枚のディスクの中に、映画の信号を記録したさらにうす〜い層を2枚重ねてあるんです。1層目を再生し終わると、2層目に再生が自動的に切り替わり、映画を続けて観ることができるというしくみなんです。
 それぞれの記録層に、映画をまっぷたつにして収録できるのがベストです。1層目 は映像をぎゅーぎゅーに詰め込んでしまい、イマイチの画質。2層目はその分余裕ができて、いきなり高画質!というのは、ちょっと不自然ですよね。
 今回の場合、最大のクライマックスは、言うまでもなくラストのシンクロシーン。 この部分は、映像の圧縮率を極力低くした、高画質を実現したいと考えていました。
 また、再生する層が切り替わる瞬間、PS2を含む一部のプレーヤーでは、どうしても一瞬再生する映像が止まって見えます。もしセリフの最中や、音楽が鳴っている箇所でフリーズすると、かなり不自然になってしまうわけです。
 そのため、1層目と2層目の画質バランスを考えても、またフリーズしても不自然にならないシーンを見つけ出して、再生切り替え点に指定しました。
 具体的には、「病み上がりブラザーズバンド」の終盤のシーン、佐藤が「俺も自分 が嫌いだね・・・」と言い終わった直後が切り替え点になっています。次のバス停の シーンからは、2層目に切り替わっているわけです。

 さて、今回指定した切り替え点は、同時にリールのつなぎ目でもありました。
 映画は、2時間の作品で5〜6本のリールに分けられた状態で映画館に届けられます。それを上映する際に映画館の皆さんが手作業で1本につないぎ、1本の映画とし て上映されているのですね(「ニュー・シネマ・パラダイス」にそんなシーンがあり ました)。
 このつなぎの部分ですが、実は必ず画像がちょっと歪んでしまうのだそうです。前のリールと後のリールをつなぐ「のりしろ」のような部分ですから、物理的にこのコマだけフィルムが厚くなってしまうわけですね。
 普通に動画として見ている分には、わずか1/24秒のことなので、画像の歪みはまず 気になりません。しかし今回、層の切り替えでこの点が一瞬止まって見えることで、「むむむ?」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、これはディスクやプレー ヤーの不具合ではありません。
 かくいう僕自身「むむむ?」と思い、各方面で調べてみたところ、上記の状況がわかった次第です。ほかのシーンへの切替点の変更も考えましたが、「1層目と2層目 の画質バランス」、そして「物語の進行を極力邪魔しない箇所」と考慮し、やはりここをベストポイントと判断させていただきました。このあたり、皆さんにご理解いた だけますよう、心からお願いいたします・・・!

●ということで。
 シンクロディスクについて、ちょっと技術的なお話になってしまいましが、いかがだったでしょうか。DVDができるまででも、本当にたくさんのスタッフが頑張ってき たことを、少しでも感じていただければうれしいです。  さて、次回はお待ちかねの特典ディスクの見所に迫ります!
 いよいよあの「仕掛け」も明らかに!?
 
 
  
 
 
 
 
製作 フジテレビジョン・アルタミラピクチャーズ・東宝・電通
監督/脚本 矢口史靖

(C)2001フジテレビジョン/アルタミラピクチャーズ/東宝/電通