【ティーチイン・3/4】

荒木:じゃあ、あちらの一番後ろの男性の方が手を挙げていらっしゃいますので。
矢口:期待している答えと違うことを僕は言っているんでしょうかね?
荒木:でも、映画監督と呼ばれる、皆さんが映画監督と思って、こういうところに観に来られる方は、だいたい皆さんノートを持って来られて、何か思い付くと常にメモをしているというのは、私はいろんな監督と、いろんなところでお会いするたびにそれは感じますね。
矢口:すいません。…どうぞ。
P(男性):あの、見終わった後めちゃめちゃハッピーな気持ちになれる映画でよかったんですけど、この映画、後半を見て、シンクロの部分でやっぱりすげえなというのがあったんですが、実際本当の高校の文化祭でシンクロを1回見てみたいなと思ったんですけど、監督自体が高校のシンクロを最初見たときの感想と、これを見て僕もなんかちょっとシンクロやりたいなという気持ちが少しあったりもするんですけど、実際監督自体がシンクロをやってみちゃったりとか、一人でお風呂で片足挙げてみたりとか、【笑】そういうことがあればということと、それからさっき監督が言っていた上野未来ちゃんとか、眞鍋かをりさんとか、ファンなものですから、監督がさっき言われた3人組の映画、ぜひ本当に撮ってください。
矢口:まず、初めて見たときに、というか見始めたときは、スタートして、なんてばかばかしいことをこいつらは一生懸命やっているんだろうという、唖然とする気持ちだけだったんですよ。だけど、演技がどんどん進んで、フィナーレに差し掛かるに当たって、なぜかグッときてしまったんです。その理由がわからないんですね、いまだに。ですけど、その、「アホか!」「ばかばかしい!」「むちゃくちゃやー!」「それやり過ぎ!」とかいうことだけの積み重ねでも、なぜかそれをやり遂げた末にはグッとくるものあるんだなということは、この男子シンクロという、普通は取り上げないような、くだらないと思われてしまいそうなものを映画にしたときに、そういうかたちになったらすごいなと思ったんです。そういう映画、観たことないし、だから、最後にシンクロの演技がドバっとある、これは決っていますよね。だから本当に、回りくねってラストがわかんないという映画じゃなくて、もうはっきりとラストは決っている、トンネルの入り口を入った途端に、もう出口の明かりがくっきり見えてるぐらい、わかりやすいストーリーじゃなきゃいけない。そこに行き着く過程として、普通、スッポンポンだったら、努力、根性、最後は勝利みたいな、まあ、負けても「よかったよね」みたいなものが必然のようにありますけど、僕はそんなものは一切なしで、とにかく笑えるエピソードしかない、連中も他力本願だったり、努力という姿のかけらも感じないほど、アホなことしかしないのに、最後にやり遂げたときにお客さん全員にぐっとくるようなものができたらすごかろうと、で、こんな映画になったわけです。そのシンクロを見たときの印象をそのまま映画にしてみたかったんです。だから、最後のシンクロのところ以外は、努力、根性、勝負も何もないという、笑いばっかりでございます。それと、なんだ? 自分でシンクロをしてみたくなったか?というと、なりませんね、こりゃ。なられた方がいらっしゃるので申し訳ないですが、もし、男に限らず女の人でもシンクロをやってみたいと思われたら、ぜひおすすめします。めちゃめちゃ、やせます。シンクロって、実際、華麗に見えますけど、すごいハードなスポーツなんですよ。僕、撮影前に、本物のシンクロの競技会とか見に行ったんですが、近くで見たときの迫力って並みじゃなくって、水面に顔を出したときに皆さん、カーっと笑ってますけど、近くで見ると、「ヒハァーッツ、ヒハァーッ」っていう【笑】本当に息をがまんしている息遣いで、だけど顔は笑ってるんです。水中にいるときは全部息をがまんしていて、水面に出たときも楽しそうに見えますけど、下ではいわゆる「白鳥の姿は美しいが水面下ではものすごい水掻きが動いている」というのとおんなじで、ものすごい、ずっと体力を使いっぱなしなんですね。だから、シンクロの選手って、普通の三食以外に、朝ごはんとお昼の間、それから昼ご飯と夕ご飯の間、それから夕飯のあとにも、たとえばカロリーメイト8本飲まなきゃいけないとか、そのぐらいガバガバ食わないと体がどんどんやせていっちゃうんですよ。やせちゃうと、演技が、水面に出るのはせいぜいここ(胸元を押さえる)から上ぐらいなので、体に結構肉をつけていないと派手さが見えないということで、皆さん努力して太っているぐらい。普通に食べていたら、ガリガリにやせてしまうというぐらいハードなもので。だから、28人はよくがんばったと思います。撮影前に1ヵ月ほど、毎日7時間のシンクロ練習をやって、そのあと夕方、近くの公園に行って、PUFFYの曲の陸のダンスの練習とかをしたりなんかしていたわけです。で、僕も、ちょっとその合宿を1週間ぐらい見学というか、参加してみようと思って行ったんですが、初日にウォーミングアップで25メートルプールを何往復かするところから1日が始まるんですが、それに参加して2往復しただけで足腰立たなくなりまして、こりゃだめだわと、あきらめました。僕も結構近所のプールとか行って鍛えてたつもりだったんですけど、コーチがちゃんとこうペースを、何秒で片道、何秒でまた折り返さなきゃいけないというのを全部仕切っていまして、連中はその練習に全部くっついていっていたので大変だったと思うんですけど、普通の人はとてもじゃないけど、ついてゆけないというほど大変な練習量でした。だから、あんなもんをやろうとは、全然思わないです、絶対にいやです。
P:今、結構ハッピーエンドの映画というのはいくつかあって、その中で1回観たらもういいやっていうのは結構多いんですけど、この映画はもう一回というか、何回も観たいなというのがあって、それが何でかなと思ったら、監督が今言われたようにスポ根とかそういうのがない、本当に楽しいところだけの連続みたいな映画で、子どもがお母さんにお気に入りの絵本を、ストーリーがわかっていても何回でもねだるようなそんな映画なんじゃないかなという気がします。
矢口:うまいこと言いますね!【笑】なるほど。
P:感想を申し上げました。
矢口:ありがとうございます。
 
荒木:この映画は、『はじめまして日本映画』というセクションの最後の上映なんですが、今回、ぴあフィルムフェスティバル、21世紀最初の映画祭ということで、どういうプログラムをやろうかと思ったときに、どうしても日本映画をやりたかったんです。なぜ、日本映画か。21世紀最初を飾るには、日本映画にどう焦点を当てていろんな映画を紹介したいと思ったときに、つまり、現在、映画というのは、皆さん、いろいろなニュースとか雑誌でお読みになると思いますが、映画はどん底だとかそんな話をいろいろお聞きになると思うんですが、映画をやっていくうえで、どうすれば多くのお客さんに届くのかということでとても悩んで、昔のようにはとてもいかないと悩んでいる時代だと思うんですが、そういう中で、やっぱり日本映画は世界でいちばんおもしろいと思うんですね。私は職業柄、世界の中の映画を観て、いろんな国に行くことが多いんですが、日本映画のおもしろさは、たとえば矢口さんのようにおもしろいものを作ろう、それからいろんなタイプの監督がいらっしゃいますが、何らかの自分の中にある誠意、映画に対する誠意だとか映画を作るということに対する非常に、損得のない純粋なかけ方というか、そういうところでは、日本ほど高いところはないと思うんです。ただ、それがお客さんにとても伝わりにくい現状だと。で、映画祭という形で何とかして一人でも多くの方に今の日本映画、最新の日本映画を、どんなに多くの人が映画のために、映画を考えていろんなことを考えてやっているかということを伝えたくて、このプログラムを作りました。特に「はじめまして日本映画」というタイトルにいろんな意味を込めているんですけれども、これから公開する予定の7つの作品、特に若い世代の意欲的な監督の作品を集め、特にこの『ウォーターボーイズ』に関しては、最後を飾る作品にどうしてもしたいと思いました。と言いますのは、矢口さんは、先ほどの質問にもありましたけれども、いろんな映画を作ってきて、学生時代に8ミリとか実験映画とかいろいろな映画を作ってきて到達した、人を楽しませたいというところに対して、これからもっともっとすごいものを作っていく人だろうと思いまして、今回これをクロージングにできたことをとてもうれしく思っています。で、皆さんにも喜んでいただけたことを本当にうれしく思っています。
 
 
 
 
 
 
 
製作 フジテレビジョン・アルタミラピクチャーズ・東宝・電通
監督/脚本 矢口史靖

(C)2001フジテレビジョン/アルタミラピクチャーズ/東宝/電通